マンションや都市部のビルなどでしばしば採用されている「機械式駐車場」。限られたスペースを有効活用でき、多くの車を収容できる点がメリットですが誤った操作や不具合・故障などにより、痛ましい事故も発生しています。今回は、そのような事故を防ぐ役割を果たす安全装置の種類と役割、安全に利用するための注意点について詳しく解説します。
▲ 落下防止装置
機械式駐車場とは
はじめに、機械式駐車場の特徴や現在の普及状況、安全対策についてご紹介します。
▲ 駐車場全景
機械式駐車場の特徴
機械式駐車場とは、車をパレットと呼ばれる専用の台に載せ、機械でパレットを動かして車を移動させ、収容する立体構造の駐車場です。駐車区画を縦に積み重ねる「二段方式」「多段方式」をはじめ、約8種類のタイプがあります。
機械式駐車場の普及状況
機械式駐車場は、都市部のマンションや時間貸し駐車場、商業施設などを中心に広く普及しています。近年は新規設置台数が減少傾向にありますが、2023年度末までの累計で全国に約60万基設置されています。また、国土交通省のマンション総合調査によると、駐車場のあるマンションのうち、機械式駐車場を採用しているのは約35%です。
機械式駐車場の安全対策について
機械式駐車場への出入庫の際は、多くの場合人が車を降りて機械を操作します。大きな装置を動かすため、過去には重大な事故も発生しました。利用者が安心して駐車場を使えるよう、安全装置の設置をはじめとするハード面はもちろん、JIS規格による安全基準の策定、利用者・管理者への注意喚起といったソフト面からも、さまざまな安全対策が行われています。
安全装置の種類と役割
次に、機械式駐車場に設置されている安全装置の主な種類と、その役割について解説します。
1.侵入検知センサー
侵入検知センサーは、駐車スペース内の車や人の動きを検知するものです。人の立ち入りや障害物への接触などがあった場合には、駐車装置が稼働しない仕組みになっています。安全に駐車できる環境をつくり、駐車装置に人が挟まれる事故や他の車両との衝突を防ぎます。
2.非常停止ボタン
非常停止ボタンは、緊急時すぐに駐車装置の動作を停止させるボタンです。動作中に何らかの危険や異常を感じた際、ただちに非常停止ボタンを押すことで、事故回避や損害の拡大防止につなげます。
3.落下防止装置
落下防止装置とは、入庫している車やパレットの落下を防ぎ、人や車を守るための安全装置です。物理的にパレットをロックする機構や、センサーで車の位置を監視するシステムによって、万が一チェーンやモーターブレーキが破損するなどの異常が発生した場合には、自動的に装置が作動するようになっています。
過去の事故事例と安全装置の重要性
機械式駐車場の安全装置は、事故防止の要です。機械式駐車場では、2021 。ここでは、実際に発生した事故事例を振り返りながら、安全装置がどのような役割を果たしているのか、その重要性に迫ります。
実際に発生した事故の事例
過去の事故事例を2件ご紹介します。
【ケース①:マンション駐車場】
運転者は子どもを乗せて入庫後、駐車装置の出入口の扉を閉める操作を行った。その後、子どもが駐車装置内に残っていることに気づいて扉を開けたが、子どもは機械に挟まれた。
【ケース②:時間貸し駐車場】
運転者Aが駐車装置内で出庫の準備をしている最中、別の運転者Bの車を入庫させるため、駐車場の係員は隣接する装置を作動させた。係員は運転者Aの出庫完了を確認できておらず、運転者Aは機械に挟まれた。また、駐車装置内の人感センサーは故障したままだった。
2つの事例は、いずれも駐車装置の中に人がいる状態で機械が作動し、発生してしまった痛ましい事故です。ケース①はセンサーがありませんでしたが、ケース②はセンサーが故障したままで、適切な維持管理が行われていなかったことも、事故の遠因となったとみられます。
安全装置が作動しなかった場合の危険性
安全装置がつけられていない、動作しない状態では、以下のような事故やトラブルが起きる可能性があります。
【①落下事故】
機械式駐車場から車が落下する事故です。主な原因には、操作ミスやセンサーの故障が挙げられます。特に、駐車場の点検やメンテナンスが不十分な場合、こうした事故が増えることがあります。
【②挟まれ事故】
駐車装置の操作中に、車や人が機械の可動部に挟まれる事故です。侵入検知センサーが正常に作動しなかった場合や、非常停止ボタンが押されなかった場合にリスクが高まります。
【③故障による停滞】
機械の故障によって、車が駐車スペースから出せなくなるトラブルです。利用者に不安を与えるだけでなく、利用者様が車を利用できずご不便、ご迷惑をおかけすることがあります。
【④火災】
電気系統のトラブルやオーバーヒートによる火災も報告されています。設置から年数が経っているものや、点検が不十分な場合はリスクが高いでしょう。
【⑤操作ミス】
利用者が誤った操作をしても、安全装置が正常に作動せず、事故が発生するケースもあります。機械式駐車場の利用に不慣れな方や、高齢者の操作ミスによる事故が懸念されます。
【利用者の方へ】機械式駐車場を安全に利用するために
過去の事故は、利用者が駐車装置を自分で操作する場面で発生したケースが多かったとされます。日常的に機械式駐車場を使う方も、そうでない方も、自分や大切な方の命を守るために、いま一度注意点をチェックしておきましょう。
機械式駐車場を利用する時の注意点
機械式駐車場を利用する時には、特に以下の点に注意しましょう。
- 駐車装置を操作する際は、周囲に人がいないか、自分の目ですみずみまで確認しましょう。
- 運転者以外は、駐車装置の外で乗り降りしましょう。
- やむを得ず同乗者がいる状態で入出庫を行う場合は、必ず目視で装置の外の安全な場所にいることを確認してください。
- 荷物の載せおろしは駐車装置の外で行い、長時間装置の中にとどまらないようにしましょう。
- 操作盤に鍵が挿さっている場合、他の利用者が駐車装置の中にいる可能性がありますので、絶対に操作しないでください。
- むやみに子どもを駐車場に立ち入らせないようにしましょう。
- 操作ボタンは必ず自分で取り扱い、操作を補助するための器具の使用はやめましょう。
- 正しい操作説明を受けていない人や子どもに、操作を委ねないようにしましょう。
- お酒を飲んだ人は、装置を操作しないようにしましょう。
- 車を運転する方だけでなく、家族や知人など、一緒に車に乗る方にも正しい利用方法を知ってもらいましょう。
安全装置が作動するケース・作動した時の正しい対処法
以下のようなケースでは、安全装置が作動する場合があります。
【センサーが異常を検知した場合】
- 駐車装置の中に人が侵入した
- ドアミラーをたたまずに入庫した
- 駐車装置を操作したことで、半ドアだった車のドアが開いた
- 規定のサイズ・重量をオーバーした車を入庫した
- 車が正しい位置に停められていなかった
【その他の異常があった場合】
- 非常停止ボタンが操作された
- 地震が発生し、揺れを検知した
- 設備に何らかの異常が生じた
駐車装置が停止した時は、自分で復旧しようとせず、管理組合などの管理者や、駐車場に記載の緊急連絡先に連絡してください。
【マンション管理会社向け】機械式駐車場の維持・管理のポイント
最後に、機械式駐車場の管理を担う方向けに、維持・管理のポイントをご紹介します。
定期点検やメンテナンスの重要性
機械式駐車場で発生した事故の中には、駐車装置そのものの不具合や破損が引き金となったケースもあります。いずれも、定期交換の対象となっていた機器を長期間放置したことによる経年劣化が指摘されています。定期点検での見落としを防ぎ、適切なメンテナンスによって正常で安全な状態を維持することが大切です。
点検の頻度や適切な管理体制の確立
駐車装置の機種や使用頻度に応じて、1~3ヶ月に1度程度点検を行いましょう。マンション管理組合など、専門的な知識を持っていない方が管理を担当している場合は、専門の技術者に保守点検を依頼し、必要な対応を講じてください。適切な管理体制を維持するため、管理責任者を置くとともに、管理方法について明示した書類を作成しておきましょう。万が一の場合に備えて、事故が起きた場合の対処方法についても検討しておくことが大切です。
住民への周知や利用方法の説明会の実施
マンションの住民などに、駐車場の正しい利用方法を周知しましょう。パンフレットなどを配る方法もありますが、可能であれば説明会を開いて、操作の方法や事故のリスク、注意事項について伝えることをおすすめします。
正しい知識を持ち、機械式駐車場を安全に使いましょう
機械式駐車場は、車を載せた装置を動かすため、大きな力が働きます。ほんのわずかな不注意が重大な事故を招く可能性もあるため、機械を操作する運転者や係員だけでなく、駐車場を使用するすべての人が正しい知識を持ち、安全な利用を心がける安全な利用に協力することが大切です。現在は、さまざまな安全装置も備えられていますが、過度に頼ることなく、自分の目でもきちんと周囲を確かめ、事故の未然防止に努めましょう。