2025.10.01

利用者が安全に駐車場を使えるよう、機械式駐車場の管理者は保守・点検を適切に実施することが求められます。今回は、機械式駐車場の保守・点検が義務として課されているものなのか、ガイドラインや法律に沿って詳しく解説するとともに、具体的な点検内容や外部業者への委託方法についてもご紹介します。
機械式駐車場の保守・点検の必要性
機械式駐車場の保守・点検は、法律で義務づけられているものなのでしょうか。まずは、法律やガイドライン、指針を踏まえて、駐車場の管理者に求められる責務について解説します。
機械式駐車場の保守・点検は義務?
機械式駐車場の保守・点検は、厳密には法律で定められた義務ではありません。保守・点検は、国の「機械式駐車設備の適切な維持管理に関する指針」において、「機械式駐車設備の適切な維持管理のために管理者がなすべき事項」として実施が推奨されているものです。
この指針は、駐車場法第15条第2項(駐車場の管理者が負うべき、駐車設備の安全性確保のための維持管理の責務)の趣旨に基づいて作成されたもので、保守・点検の手順や関係者の役割について示しています。ただし、同法で定められた維持管理の義務を果たすためには、定期的な保守・点検が欠かせません。
国の指針・ガイドラインに基づく管理者の責務とは
国が示す「機械式駐車設備の適切な維持管理に関する指針」では、駐車場の管理者(例:駐車場の運営企業やマンション管理組合)に対し、以下のように適切な点検の実施を求めています。
- 管理者は、自らが適切に保守・点検を行う場合を除いて、使用頻度に応じ定期的に保守点検業者に保守・点検を実施させる。
- 管理者は、業者が適切に点検できるよう、製造者が作成した保守・点検資料などの必要資料を閲覧させる、または貸与する。
- 管理者は、業者に保守・点検についての作業報告書を提出させる。管理者が自ら点検する場合は、作業記録を作成する。
また、国土交通省の「機械式立体駐車場の安全対策に関するガイドライン」でも、駐車場の管理者に対して、以下のような取り組みを求めています。
装置が正常で安全な状態を維持できるよう、機種や使用頻度等に応じて、専門技術者による点検を受け、必要な措置を講じる。
保守・点検を怠ることのリスク
過去には、機械装置の維持保全が不十分だったことで、安全装置が作動せず死亡事故が発生しました。命にかかわる大きな事故に至らずとも、部品の交換や保全工事を先延ばしにしたことで、車両の損傷や利用者の閉じ込めなどの事故につながったケースもあります。万が一、保守・点検を怠ったことで事故が起きた場合、駐車場の管理者は民事上、刑事上の責任を問われる可能性があります。
機械式駐車場の点検頻度と項目
機械式駐車場の点検は、駐車設備の状態を維持し、故障や破損のリスクを下げることを目的に行います。ここでは、推奨される点検頻度と一般的な点検項目についてみていきましょう。
点検頻度の目安
ガイドラインでは、推奨する点検頻度の目安を「1〜3か月に1回」としています。また、指針ではさらに細かく、装置ごとの点検頻度の目安を示しています。駐車場の管理者は、製造者から提示された部品の耐用年数や交換時期を参考に、保守・点検を行う必要があります。管理者自身でも、目視などで日常的に機械装置の状態をチェックし、動きや音に異常がないかを確かめることが大切です。
安全装置の機能点検
安全装置は、利用者の命を守る重要な役割があります。正常に働いていなければ、事故を防ぐことができません。「緊急時に確実に止まる」「誤作動しない」ことを確認するための点検です。目視による確認のほか、実際に動作させてチェックを行います。
【項目】
- 非常停止装置、検知装置
- 駐車装置・自動車の保護装置
- 危険を知らせるためのランプ・アラート
- 誤操作・誤動作による事故を防ぐ安全装置(インターロック) など
- ブレーキ
動作点検
装置がスムーズに動作するかを確かめる点検です。主に車の昇降や旋回に関わるため、不具合があると車の出し入れができなくなったり、車や装置が破損したりするおそれがあります。状態に応じて、チェーンの張り調整や潤滑油の給油、清掃などを行います。
【項目】
- 昇降搬送装置
- ターン装置
- チェーン
- ワイヤーロープ
- スプロケット など
摩耗・劣化の点検
摩耗や劣化は、設備の長期使用に伴い必ず発生するものです。特に回転や摺動がある部品は、摩擦や金属疲労により亀裂・摩耗が進行します。摩耗、亀裂、劣化などを早期に発見して交換・補修することで、故障や事故を防ぎます。
【項目】
- 電動機(ブラシ)
- 減速機(ライニング厚み)
- チェーン
- ベルト
- ローラー類 など
電気系統の点検
配線の緩みや絶縁不良はショートや誤作動を招き、火災や事故の原因となりかねません。端子の増し締めや絶縁抵抗値の測定などにより、安全な状態を保ちます。
【項目】
- 配電盤
- 制御盤
- モーター
- 配線 など
外観の点検
駐車装置全体に変形や損傷、腐食がないかを目視で確認します。
【番外編】消火設備の点検
機械式駐車場に設置される消火設備のうち、二酸化炭素を用いる全域放出方式の消火設備は、延床面積にかかわらず消防設備士などの有資格者による点検が必要です。
点検業務は外部委託がおすすめ
ご紹介してきたように、機械式駐車場の点検内容は多岐にわたります。そのため、保守・点検業務は、専門の知識を持つ外部の業者に委託することがおすすめです。外部に委託する場合の契約形態と特徴を押さえておきましょう。
FM(フルメンテナンス)契約
FM(フルメンテナンス)契約とは、通常の定期点検の費用に加えて、将来交換が必要になる主要部品の費用、修繕費用まで含む契約形態です。大規模な設備や長期使用を前提とした建物で多く採用されています。ただし、地震や水害などの天災や、人為的な過失による故障は対象外とするケースが多いです。
メリットは、突発的な修繕や部品交換の際にも追加費用が発生しにくく、予算を立てやすい点です。ただし、POG契約に比べると高額になる傾向があります。
POG(部分メンテナンス)契約
POG(部分メンテナンス)契約とは、定期的なメンテナンスや一部の消耗品交換、潤滑油の補充などが含まれた契約形態です。「Parts(部品)・Oil(オイル)・Grease(グリス)」の頭文字をとったもので、設備の基本的な機能を維持する目的があります。
FM契約に比べると費用が低い点がメリットですが、大規模な修繕や部品交換が発生した場合は追加費用がかかります。近年は、コスト面のメリットからPOG契約が主流です。
外部業者に依頼する時のポイント
最後に、保守・点検を外部業者に依頼する際のポイントを3つご紹介します。
十分な専門知識と経験を持っているか
委託先に十分なノウハウがあるかを確認しておきましょう。管理している機械式駐車場と同じ機種、または類似する機種の保守・点検の実施実績があると安心です。また、有資格者の在籍状況もチェックポイントの一つです。
作業内容が明確になっているか
保守・点検の内容や頻度、契約内で交換可能な消耗部品の範囲などを明確にし、事前に取り決めましょう。特に修理については、「どこから追加費用が発生するか」「緊急対応の費用は含まれるか」など、トラブルになりやすい部分が多いため注意が必要です。
緊急時に連携して対応できるか
故障や閉じ込め事故などの緊急時に、迅速に対応してもらえるかどうかも確認しましょう。24時間対応のコールセンターや、夜間・休日でも出動可能な体制を持っていると安心です。具体的な緊急フローを事前に確認・共有し、緊急時の費用負担についても取り決めておくことが大切です。
安全な利用のため定期的な保守・点検を行いましょう
機械式駐車場の保守・点検を適切に実施することは、駐車場の管理者に求められる責務です。機械装置の故障や誤作動による事故を未然に防ぐためだけでなく、長く使用していくためにも、性能や外観を保つメンテナンスは必須です。保守・点検業務は、専門知識を持ち、信頼できる外部の業者に委託することが、長期的な安心につながります。所有する駐車場設備の状況や管理方針を考慮して、十分な比較検討を行い、業者や契約内容を決めましょう。


